百人一首の覚え方でおススメなのは、歌の意味を理解することです。
一覧をひたすら読み続けても暗記できますが、意外と忘れます。
歌の意味を理解すると、楽しい上にずっと早く覚えられます。
決まり字などをその後で♪
1首
わが
★農夫の辛苦を思いやる天皇の心
(刈り取られた稲の見張り小屋で、ただひとりで夜を明かしていると、葺いてある屋根の苫の編み目が粗いので、私の着物はぐっしょりと夜露で濡れ続けていることよ。)
2首
★さわやかな夏のおとずれ、時の推移
(いつの間にか春が過ぎて夏が来たらしい。どうりで、夏になると白い衣を干すと言い伝えのある天の香具山の麓に、目にも鮮やかな真っ白な衣が干してあるのが見えるよ。)
3首
あしびきの
ながながし
★長い夜をひとり寝るさびしさの嘆き
(垂れ下がった山鳥の尾羽のような長い長いこの秋の夜を、離ればなれで寝るという山鳥の夫婦のように、私もたった一人で寂しく寝ることになるのかなあ。)
4首
★富士山の神聖な美しさへの感動
(田子の浦の海岸に出て、はるか向こうを仰いで見ると、神々しいばかりの真っ白な富士山の頂に、今もしきりに雪は降り続いているよ。)
5首
★暮れてゆく秋山の寂寥と哀感
(遠く人里離れた奥山で、一面散り積もった紅葉の枯れ葉を踏み分けながら、恋の相手を求めて鳴く雄鹿の声を聞くときこそ、秋の悲しさはひとしお身にしみて感じられるものだ。)
6首
かささぎの
★宮中の冬の霜の夜更けの幻想的な美しさ
(かささぎが翼を並べて架けたといわれる天の川の橋。それにたとえられる宮中の橋に真っ白な霜が降りて、その白の深さを見るにつけても、夜もいっそう更けてきたことよ。)
7首
★異国で見る月によって催された望郷の念
(大空を仰いで見ると、こうこうと月が照り輝いている。かつて奈良の春日にある三笠山の上に昇っていたあの月が、今ここに同じように出ているのだなあ。)
8首
わが
★心静かに住む、宇治での隠棲
(私の庵は都の東南にあり、辺りには鹿もいるほど寂しいが、これこの通り静かに暮らしている。それなのに人は私を世の中をつらいと思って宇治に遁れていると言っているそうだ。)
9首
わが
★色あせた桜に寄せての、容色の衰えと憂愁の心
(桜の花の色がすっかり色あせてしまったと同じように、私の容姿もすっかり衰えてしまったなあ。桜に降る長雨を眺め、むなしく恋の思いにふけっている間に。)
10首
これやこの
★人々が出逢っては別れる、逢坂の関に寄せる感慨
(これが都(京都)から東へ下っていく人も、都へ帰ってくる人も、顔見知りの人もそうでない人も逢っては別れ、別れては逢うというこの名の通りの逢坂の関なのだなあ。)
11首
わたの
★配流の舟出の孤独感と、都の人に寄せる思慕の情
(海原はるかに多くの島々を目指して私を乗せた舟は漕ぎ出していったと、都(京都)にいる私の親しい人に告げておくれ。そこにいる漁師の釣り舟よ。)
12首
★五節の舞姫の美しさに魅せられ、これを賛美する心
(大空を吹く風よ、雲の中の通路を閉じておくれ。天に戻っていきそうな、この美しい天女たちをとどめて、今しばらくその舞を見ていたいと思うから。)
13首
★ひそかな恋心が積もり深い物思いに悩んでいること
(筑波山の峰から流れ落ちる男女川は、流れ行くとともに水量が増して淵(深み)となるように、私の恋心も、時とともに思いは深まり、今は淵のように深い恋になってしまった。)
14首
★相手のために乱れてしまった心の強い高ぶり
(陸奥のしのぶもじずりの乱れ模様のように、私の心は忍ぶ恋のために乱れています。このように乱れはじめたのは誰のせいでしょうか。私ではなくて皆あなたのせいなのですよ。)
15首
わが
★雪に降られながら若菜を摘む、相手へのまごころ
(あなたに差し上げるために、春の野原に出て若菜を摘んでいる。その私の着物の袖に雪がしきりに降りかかっている。)
16首
まつとし
★別れに際して名残を惜しむ人への挨拶
(あなたとお別れして、因幡の国へ行きますが、その地にあるいなばの山の峰に生える松のようにあなたが待っていると聞いたなら、今すぐにでも帰って来ましょう。)
17首
ちはやぶる
から
★竜田川に散り流れる紅葉の華麗な美しさ
(遠い昔、数々の不思議なことが起こっていたという神代でさえも聞いたことがありません。川面一面に紅葉が散り浮いて流れ、この竜田川の水を真紅色の絞り染めにするとは。)
18首
★夢においても人目を忍ぶ恋のもどかしさ
(住吉の海岸に打ち寄せる波の、そのよるという言葉ではありませんが、昼はもちろん、夜までもどうして私は夢の中の恋の通い道で人目を避けるのでしょう。)
19首
★訪れて来ない男をなじる恨みと嘆きの心
(難波潟に生い育つあの葦の節と節の短い間のように、そんな短い間でさえ、あなたとお逢いしないで、このままこの世を過ごせとおっしゃるのですか。とてもできません。)
20首
わびぬれば
★身を滅ぼしてでも会いたいという激しい恋心
(うわさが立ち、逢うこともままならない今は、もはや身を捨てたのも同じこと。それならばいっそ難波潟の「みをつくし」ではありませんが、この身を捨ててもあなたにお逢いしたい。)
21首
★約束しながら来なかった男への恨み言
(「今すぐ行くよ」とあなたがおっしゃるので、秋の夜長を今か今かと待つうちに、まあなんてこと、とうとう九月の明け方の月が出るまで、待つことになってしまったことですよ。)
22首
むべ
★秋の草木をしおれさせる山風の荒々しさ
(山風が荒々しく吹きおろすと、たちまち秋の草木がしおれてしまう。なるほど荒々しいからそれで「あらし」、また山から吹く風なので文字通り「嵐」というのだろうか。)
23首
わが
★秋の夜の月をながめて、物思いにふける孤独の悲哀
(秋の月を見ていると様々なことが悲しく感じられます。私一人を悲しませるために秋が来るというのではないのですが。)
24首
このたびは
★手向山の紅葉を幣としてささげること
(このたびの旅は急なお出掛けのため、お供えの幣帛の用意もできていません。とりあえず、この手向山の美しい紅葉の錦を幣帛として神よ、御心のままにお受け取りください。)
25首
★誰にも知られないで逢いたいという切実な思慕の情
(逢坂山のさねかずらが、あなたに逢って寝るという意味を暗示しているなら、そのさねかずらの蔓をくるくる手繰るように他人に知られず、あなたのもとへ来る方法がないものか。)
26首
★紅葉の美しさへの賛美と、散らずにいてほしい願望
(小倉山の峰の紅葉よ。ああ、あなたにもし心があるならば、もう一度天皇のお出まし(行幸)があるまで、どうか散らずにそのままで待っていてください。)
27首
みかの
いつ
★まだ見ぬ女性に対する強い恋心の不思議さ
(みかの原を分けるようにわき出て流れるいづみ川ではないけれど、いつ見たためか、いつ逢ったのか、いや本当は逢ったこともないのに、どうしてこんなに恋しいのだろう。)
28首
★人も訪れず草も枯れてしまう冬の山里の寂寥感
(山中の里はいつの季節でも寂しいけれど、冬にはその寂しさがいっそう身にしみて感じられることだよ。人の行き来も途絶えてしまい、草も木もすっかり枯れ果ててしまうかと思うと。)
29首
★初霜にまぎれるばかりの白菊の清楚な美しさ
(当てずっぽうに折るのなら折ってみようか。初霜が一面に降りたために真っ白になって、どれが花やら霜やら見分けがつかなくなってしまっている白菊の花を。)
30首
★よそよそしい態度を見せた女性への恨み言
(明け方の月が冷ややかに、そっけなく空に残っていたように、あなたが冷たく見えたあの別れ以来、夜明けほどつらく思えるものはありません。)
31首
★有明の月のように明るく降り積もる吉野の雪の清さ
(ほのぼのと夜が明けるころ、明け方の月が照らしているのかと見間違えるほどに、吉野の里に白く降り積もっている雪であることよ。)
32首
★山川にしがらみのように散りたまった紅葉の美しさ
(山あいを流れる川に風が作ったしがらみ(川の流れをせき止める柵)は、よく見ると流れることができないでたまっている紅葉の葉であったのだなあ。)
33首
ひさかたの
しづ
★春ののどかな陽光の中に散る桜の美しさを惜しむ心
(日の光がこんなにものどかな春の日に、どうして桜の花だけが落ち着いた気持ちもなく、慌ただしく散ってしまうのだろうか。)
34首
★昔の友人がみな死んでしまった、孤独な老いの嘆き
(年老いた私は、今もう誰を友にしたらよいのだろうか。相手にできそうなものといえば、長生きで知られている高砂の松ぐらいなものだが、その高砂の松でさえ、昔からの友ではないのに。)
35首
★変わらぬ梅の美しさと、人の心のうつろいやすさ
(あなたは、さあ、心変わりしておられるかどうか分かりませんが、昔なじみのこの里では梅の花が昔と変わらずによい香りを漂わせて咲いていることだ。)
36首
★雲の彼方に姿を隠している、夏の夜の月を惜しむ心
(夏の夜はとても短く、まだ宵の口だと思っているうちに、もう夜が明けてしまう。これではいったい雲のどの辺りに月はとどまっていられるのだろうか。)
37首
つらぬきとめぬ
★秋の野の風に散り乱れる白露の美しさ
(葉の上に降りた美しい白露に、しきりと風が吹きすさぶ秋の野。風で散ってゆく白露はまるで一本の糸で貫き止まっていない玉を、この秋の野に散りばめたようだなあ。)
38首
★愛を誓った相手が神罰で滅びゆくことを惜しむ恋心
(あなたに忘れられる私のこの身がどうなろうともかまわない。それよりも神に誓った私との愛を破ったことで神罰が下り、あなたの命が失われることが悔しいのです。)
39首
あまりてなどか
★おさえられない恋心の切なさの告白
(浅茅が生えている小野の篠原ではないが、この心を耐え忍んでも、耐えきれぬほどにどうしてこんなにも、あなたのことが恋しくてたまらないのだろうか。)
40首
ものや
★隠せば隠すほど表情に表れてしまう悩ましい恋心
(私の恋心は、誰にも知られまいと心に決め、耐え忍んできたが、とうとうこらえきれず顔に出てしまったのか。何か物思いがあるのですかと人が尋ねてくるほどに。)
41首
★ひそかな恋が人の噂になってしまったことへの当惑
(私が恋をしてしまったという浮き名が、こんなにも早く世間に広まってしまった。誰にも知られないよう自分の心の中だけで、ひそかにあの人を思いはじめたのに。)
42首
★約束を守らずに心変わりした女性の不実をなじる心
(誓い合いましたね。お互いの涙で濡れた袖を絞りながら。心変わりをすれば波が越すという末の松山を波が越すことがないように、私たち二人の愛も決して変わりはしないと。)
43首
★契りを結んでからの深い恋心の切なさ
(どうかしてあなたに逢いたいと思っていたが、逢ってみるとかえって苦しく、切ない今のこの気持ちに比べると、逢う前の恋の悩みは何ほどのこともなかったのだなあ。)
44首
★逢ってかえってつれなくなった相手を恨む苦しみ
(もし逢うことが絶対にないのなら、かえってあの人をも私自身をも恨むことはしないだろうに。)
45首
あはれとも いふべき
★女に捨てられた男の、孤独な弱い心
(私のことをかわいそうだと悲しんでくれそうな人が思い浮かばなくて、きっと私は一人恋焦がれて、むなしく死んでいくのにちがいないのだろうなあ。)
46首
ゆくへも
★将来の予測のつかない恋の行く末の不安
(由良の海峡を渡って行く舟人が、櫂をなくしてどうすることもできず、行く先もわからないで漂うように、これからの私の恋の行く末もわからないことだ。)
47首
★訪れるものは秋だけという荒れた住まいのわびしさ
(幾重にも蔓草が生い茂るこの家は寂しいので、こんな寂しい所に誰も訪ねては来ないけれども、秋だけはいつものようにやってきたのだなあ。)
48首
くだけてものを
★つれない女性のために思い悩む片思いのやるせなさ
(風が激しいので、岩にぶちあたって砕け散る波のように、あなたの冷たさに私の心も砕けるくらいに思い悩む今日この頃だなあ。)
49首
★夜も昼も思い悩む恋心の苦しみ
(宮中の門を守る衛士がたくかがり火のように、夜は燃え、昼になると消えるように、私の恋心も夜は熱い思いで身を焦がし、昼は魂が消えそうになるほど思い悩むのだ。)
50首
★命まで惜しくないと思った恋の永続を願う気持ち
(あなたのためにはたとえ捨てても惜しくはないと思っていた命だけれど、あなたに逢った今となっては長生きをしたいと思うようになってしまったよ。)
51首
かくとだに えやはいぶきの さしも
さしも
★胸にあまる切ない恋心を相手に訴えようとする心
(こんなに恋い慕っているということだけでもあなたに伝えたいのですが、伝えられない。あなたは知らないでしょう。伊吹山のさしも草のように燃え上がる私の思いを。)
52首
なほ
★また逢えると知りながらも別れて帰る夜明けのつらさ
(夜が明けるとまた日が暮れ、いずれ再びあなたと逢えるとは分かっていても、やはりこの別れを促す夜明けは恨めしいことだ。)
53首
いかに
★ひとり寝の長くつらい夜の嘆きを相手に訴える心
(あなたが来ないのを嘆きながら、一人寝る夜が明けるまでの間がどんなにか長いものであるかをあなたはご存じでしょうか。いいえ、おわかりではないでしょうねえ。)
54首
★幸福の絶頂において死んでしまいたいという女心
(いつまでも忘れはしないとおっしゃるあなたのお言葉が、将来いつまでも期待できるものとは思えませんから、今日を最後の命としたいと思います。)
55首
★水が涸れて久しい滝の今もなお伝わる名声への賛美
(ここ大覚寺にあった滝の水の音が聞こえなくなってずいぶん長い年月が経てしまったが、その評判だけは世の中に流れ伝わり、今日でも聞こえ知られているよ。)
56首
あらざらむ この
★来世への思い出にもう一度逢いたいという恋心
(私の命はもうすぐ尽きてしまうでしょう。せめて、あの世への大切な思い出として、私の命が尽きる前にもう一度だけ、あなたにお逢いしたいものです。)
57首
めぐり
★あわただしく帰っていった幼友だちへの名残惜しさ
(久しぶりにめぐり逢って見たのが確かであるかどうか、見分けがつかないうちにあなたは慌ただしく帰ってしまった。雲の間に隠れてしまった月のように。)
58首
いでそよ
★冷たい男に対して自分の変わらぬ気持を訴える心
(有馬山近くにある猪名の笹原に風が吹くとそよそよ鳴る音がする。そうですよ、(忘れるのはあなたの方であって)どうして私があなたのことを忘れることがありましょうか。)
59首
やすらはで
かたぶくまでの
★来ると約束して来なかった男への恨み言
((あなたがおいでになる気配がなければ)ためらわずに寝てしまいましたものを。あなたをお待ちしていたばかりに西の空に沈んでいく月までも見てしまいました。)
60首
まだふみも
★母からの便りは受け取っていないという趣旨の伝達
(大江山を越えて行く生野の道のりが遠いので、まだ天の橋立へ行ったことはありませんし、ましてや母からの手紙なども見てはおりませんよ。)
61首
いにしへの
けふ
★旧都平城京の八重桜が、平安京の宮中に咲く美しさ
(昔、奈良の都で咲き誇っていた八重桜が、今日は平安京のこの宮中でいちだんと美しく咲き誇っていることであるよ。)
62首
よに
★夜深いうちに帰った男に対し、やり返す心
(まだ夜も明けきらないうちに、鶏の鳴きまねをして、だまして通ろうとしても、私と逢うこの逢坂の関だけは決して通しはしませんから。)
63首
★あきらめると一言だけでも直接告げたい切なる思い
(今となってはただもうあなたのことはきっぱり思い切ってしまおう、というその一言だけを、他人に頼んでではなくて、直接あなたに言う方法があってほしいものだなあ。)
64首
あらはれわたる
★霧の絶え間に網代木が見える宇治川のすがすがしさ
(朝、だんだんと明るくなってくる頃、宇治川に立ち込めた川霧がとぎれとぎれに晴れていき、その霧の間から、しだいに現れてくるあちらこちらの川瀬に仕掛けた網代木よ。)
65首
★恋の浮き名に朽ちてしまいそうな自分を惜しむ心
(つれない人を恨み悲しんで流す涙で、乾くときもないこの袖さえ朽ちずに残っているのに、恋の噂で朽ちてしまう私の名が惜しいことですよ。)
66首
もろともに あはれと
★修行のために入った深山での山桜に呼びかける孤独感
(私がお前に親しみを感じるように、お前も一緒に私のことを懐かしく思っておくれ。山桜よ。お前以外に私の心を本当に知ってくれるものはいないのだから。)
67首
かひなく
★たわむれに契っては浮き名が立つと、断る気持ち
(春の夜の夢のようにはかないあなたの腕枕のために、つまらなく立ってしまう浮き名を残念に思うことです。)
68首
★不遇な現実も恋しく思えるだろうという絶望的嘆き
(自分の本心に反して、この思うままにならないつらい世の中に生き永らえていたならば、その時はきっと恋しく思い出すに違いない。今夜のこの美しい月のことを。)
69首
★竜田川に浮かぶもみじ葉の錦織のような美しさ
(激しい風によって吹き散らされた三室の山のもみじ葉は、やがて竜田の川に散り、ほら、水面を錦織の布のように鮮やかに彩っているよ。)
70首
いづこも
★ものみなが秋の夕暮れの寂寥をたたえている感慨
(あまりの寂しさに、庵の外に出て辺りを物思いにふけりながら眺めてみると、私の心が悲しみに沈んでいるせいだろうか、どこもおなじように寂しい秋の夕暮れであるなあ。)
71首
★夕方の田舎家に稲田を渡って吹いて来る秋風の風情
(夕方になると、家の前の田んぼに秋の風が訪れ、稲葉がさやさやとよい音を立てて揺れる。その冷たくて心地好い秋風は、私がいるこの葦葺きの田舎家にも吹き渡ってくるよ。)
72首
かけじや
★浮気で評判の男性に言い寄られ、それを拒む気持ち
(うわさに名高い高師の浜の波は身にかけますまい。袖が濡れては大変ですから。おなじように浮気で名高いあなたのお言葉は心にかけますまい。袖を涙で濡らすのは嫌ですから。)
73首
★はるかな山の峰に咲く桜への愛着
(遠くの高い山の頂きに山桜が美しく咲いたなあ。近いところの山の霞よ、どうか立たないでおくれ。あの美しい山桜が見えなくなってしまうから。)
74首
はげしかれとは
★つれない人をなびかせようと祈ったが、叶わぬ嘆き
(私につれないあの人をなびかせてくれるようにと初瀬の観音様にお祈りはしたが、ああ、初瀬の山に吹く冷たい山おろしよ、お前のように冷たくなれとは祈らなかったのに。)
75首
あはれ
★願っていた子供の栄達の約束が果たされぬ悲嘆
(つらくても私を信じなさいというさしも草の歌に掛けた恵みの露のようにありがたい約束のお言葉を命綱のように頼ってきましたのに、今年の秋も過ぎてゆくようです。)
76首
わたの
★白雲と沖の白波とがとけあって見える大海原の眺め
(広々とした海に舟を漕ぎ出して、遥かかなたを見渡すと、沖の方には白い雲に見間違えるほどの大きな白波が立っていたのです。)
77首
われても
★仲をさかれても将来は一緒になろうという強い恋心
(急な傾斜のため、川の瀬が激しく速いので、岩にせき止められた水の流れが一度は二筋に別れても、また後ほど出会うように、熱い思いで別れた私たちもまた必ず逢おうと思う。)
78首
いく
★須磨の千鳥の声によってもよおされた旅の哀感
(海峡を隔てて日中は見えるあの淡路島から渡ってくる千鳥の鳴く悲しい声に、この須磨の関所の番人は幾夜目を覚まして物思いにふけったことだろうか。)
79首
もれ
★雲の間からもれて来る秋の月の光の清らかな美しさ
(秋風に吹かれて、大空に横に細くたなびいている雲の切れ間から、漏れて姿を現す月の光の、何という清らかな明るさであろう。)
80首
ながからむ
★契りを結んだ翌朝の、心変わりを案じる恋の物思い
(末永く愛してくれると誓ったあなたの心が分からないので、一夜逢って別れた今朝の私の心はこの寝乱れた黒髪のように物思いで乱れていることですよ。)
81首
ほととぎす
ただ
★ほととぎすの初音の方には月が浮かんでいたこと
(戸外の明け方近い夜空を、ひと声ほととぎすの鳴いた方角を見ると、もうその姿はなく、ただ夜明けの下弦の月だけが残っているのであった。)
82首
★つれない人を恋慕うことのつらさ、悲しさ
(長い年月、つれない恋のため思い悩んでいても、こうして死にもせず命はあるのに、それでもそのつらさに耐えられなくて流れて仕方がないものは涙であることよ。)
83首
★夜の苦しみ、つらさをはらうすべのない深いさびしさ
(世の中には悲しみやつらさから逃れられる道はないのだろうか。世間からずっと離れた山奥でさえ、鹿が妻恋しさに悲しげに鳴く声が聞こえてくる。)
84首
ながらへば またこのごろや しのばれむ
★つらく苦しい現実に暗く沈みがちな心境
(もしこの世に生き永らえていたら、つらい今が懐かしく思い出されることもあるのだろうか。かつてつらかったあのときも、今思い返すと恋しく懐かしく思われるのだから。)
85首
ねやのひまさへ つれなかりけり
★訪れて来ない男のつれなさを恨む心
(夜通し、まだ訪れぬお慕いするあの方のことを思い悩むときは、夜はなかなか明けないで、あの方を待つはずの寝間の戸のすきまさえ、私の気持ちを分かってはくれないものだ。)
86首
かこち
★恋の物思いで、月を見ても涙がこぼれ落ちる心境
(月が私を悲しませようとでもしているのか、いやそんなはずはないのだが、そうとでも思いたくなるほど、月にかこつけるようにして涙が流れてしまうのだ。)
87首
★霧が立ちのぼる秋の夕暮れの、静かで心寂しい情景
(にわか雨のしずくがまだ乾かずにとどまって輝いている針葉樹(杉や檜)の葉に、霧が谷間から涌き上がってくる秋の夕暮れの光景よ。)
88首
★旅寝の一夜の契りゆえの一途な女の恋心のあわれさ
(難波江の葦を刈ったあとの一節の根のように、短い仮寝の一夜だけのために、難波江の名物「みをつくし」でもあるまいに私は身を尽くして一生恋することになるのでしょうか。)
89首
★人目を忍び心に秘める、忍ぶ恋の激しい心情
(私の命よ、絶えるなら絶えてしまうがいいわ。このまま生き永らえたとしても、恋心を隠し通す気力も衰えてしまうことでしょうから。)
90首
★相手のつれなさを嘆き、つらさを訴える恋の心情
(ああ、あの人に見せたいものよ。雄島の漁師の袖でさえ、どれほど波しぶきで濡れに濡れたとしても色が変わらないというのに、私の袖はもう涙ですっかり色が変わっている。)
91首
きりぎりす
★寒い霜夜のひとり寝のわびしさ
(こおろぎが鳴いている、霜の降りるそんな肌寒い夜、寒いばかりか私は、粗末なむしろの上に片袖を敷いて独りぼっちで寝るのだろうか。)
92首
わが
★人知れぬ片恋の嘆き、悲しみ
(私の袖は、まるで潮が引いたときでさえ姿を現さない沖の石のように、いくらあの人が知らないなんて言ったって、涙で乾く間もないのですよ。)
93首
★漁師のさまを見て、世の無常を嘆く哀感
(変わりやすい世の中ではあるが、ずっと平和であってほしいことだ。この海辺は平穏で、渚を漕ぎ出す小舟が引き綱を引いている光景が、しみじみと愛しく心にしみることだ。)
94首
み
ふるさと
★きぬたの音が身にしみる、吉野山の秋の夜の寂しさ
(吉野の山から秋風が吹き、夜も更けた。昔、都だったこの里では寒さもいっそう身にしみて、砧(木や石の台)に置いた衣を打つ音が寒々と聞こえてくる。)
95首
おほけなく
わが
★世の人々のために仏の加護を祈ろうとする決意
(身のほどをわきまえないことだが、このつらい世の中を生きる人々に覆い掛けるのだ。比叡山に住み、修行の道に入った私の僧衣の袖を。そして人々のために祈ろう。)
96首
ふりゆくものは わが
★桜の落花に寄せて述べる自身の老いの嘆き
(桜を誘って散らす激しい風が吹く庭。そこに散り敷くのは雪かと思う。しかしふる(降る)のは雪ではなく、実は古びていく私自身なのだ。)
97首
★待てども来ぬ人を待つ女心のもどかしさ、嘆き
(待っても来ない人を待つ私は、松帆の浦の浜辺で焼いている藻塩の煙がなびいているが、この身も恋の思いにこがれていく、そんな気持ちなのだ。)
98首
みそぎぞ
★秋の気配が感じられる、夏の終わりの夕暮れの情感
(楢の葉を揺らすそよ風が吹き、夕暮れは秋のように涼しい。しかし、上賀茂神社の境内を流れる御手洗川で行われるみそぎの光景を見ると、やはりまだ夏なのだなあ。)
99首
★愛憎が交錯し、思い悩みつつ世に生きる身の嘆き
(ある時は人々を愛しく思い、またある時は恨めしいとも思う。この世はどうにかならないものだろうが、それゆえに物思いをする私であるよ。)
100首
なほあまりある
★栄えていた昔の御代を懐かしみ朝廷の衰微を嘆く心
(宮中よ、時代を経て古びてしまった建物の軒の端に、しのぶ草が生い茂っている。それを見るにつけ、朝廷が栄えた昔のよき時代がしのばれて懐かしく思われることだ。)
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